慶應義塾大医学医学部

サントリーグローバルイノベーションセンター

テーマ3

細胞内の水の動きを可視化する。 生体内水の流れの計測とシミュレーション

生体内水バランスと動的水分布の予測に基づく適切な水補給法の提案

毛細血管からの水の出入り

私たちは毎日飲み物や食べ物から水分を摂取し、またそれらを尿や便として身体から排出しています。では摂取から排出までの間、水は体内のどこをどのように流れるのでしょう。体内の水は細胞の外を流れる血液のほか、臓器の細胞内液などの形で存在していますが、詳しい流れ方は部位や状態によってさまざまで、今もなお全てが明らかになっているわけではありません。
本テーマでは、体内の水の詳細な流れを精度よく推計するための新しいシミュレーション技術の開発を進めています。

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研究概要

人体の約60%を占める水のうち、5%は血液として血管内に、40%は各臓器の細胞内に、そして15%は血管と臓器細胞の間にある組織・間質液として存在している。そのうち血液循環については、血流・血圧を測定する技術が以前より確立されていることにより数多くの知見が蓄積されてきているが、細胞内液そして組織・間質液の動態については、ほとんど解っていない。さらに、水の動き(容積流)とは異なり水の「拡散」動態を観測する技術が最近までなかったこともあり、生体中、特に細胞内および組織・間質液中における水の拡散様式については全く解っていない。

本プロジェクトでは、Coherent Anti-stokes Raman Scattering (CARS) 顕微鏡を用いた生体組織内での水の動態の直接的可視化技術を確立し、生体内水動態の計算機シミュレーションモデルを用いて、その定量的かつ統合的理解をめざす。

ヒトにおける水代謝動態の理解を通して、病気予防と健康増進に貢献する。平常時はもとより、激しい運動後や災害時での極度の飲水制限後における、体にいい水分の取り方を知ることは非常に重要である。また、脳浮腫や咽頭浮腫など致死性病態の理解と治療法の開発から、下肢や顔のむくみのメカニズムに小顔作りなどの美容まで、様々な応用が期待できる。

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CARS顕微鏡を用いた生体内水動態の直接観察

非線形光学(CARS)顕微鏡を用いて、今までは不可能であった生体組織内における水の拡散動態の直接観察をおこなう。

研究の背景・目的

水の動き(容積流)は様々な方法で観測できるが、水の拡散現象を直接的に観測する技術は、最近まで存在しなかった。我々は、近年のレーザー工学の飛躍的な発展により可能となった極短パルスレーザーを用いて、水H2Oと重水D2Oの分子振動数の違いから、水の拡散動態を直接可視化することが可能なCARS顕微鏡を開発した。

水分子を光らせるCARS顕微鏡を用いた水動態の直接観察

CARS顕微鏡を用いてさまざまな生体組織、当該研究期間中においては、単離膵導管上皮およびマウス腸間膜毛細血管網における水拡散動態の直接観察をおこなう。

計画

  • 1年目

    モルモット膵導管単離手技の習得およびCARS顕微鏡への二重灌流装置の組み込み

  • 2年目

    単離膵導管上皮CARS実験およびマウス腸間膜毛細血管網潅流技術の確立

  • 3年目

    単離膵導管上皮および腸間膜毛細血管網実験の完了および論文発表

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シミュレーションモデルを用いた生体内での水動態の統合的理解

コンピュータシミュレーションを用いて、ヒトの全身における動的・非平衡な水動態の定量的かつ統合的理解をめざす。

研究の背景・目的

ヒトはもとより地球上の生命は、水を外界から摂取、代謝(循環・分布)、そして排出(分泌)しながら生きている。ヒトの水分の摂取・排出量は古くから教科書レベルでの常識として知られてきた。しかしながら、それらのデータは限られた条件下で得られた、外界との水のやり取りについての日オーダーでの大まかな値であり、生物が体内で行なっていると予想される分・秒オーダーでの動的かつ非平衡な水の代謝(移動)については何もわかっていない。

既報データに加え、CARS顕微鏡実験等で新規に得られたデータに基づいて、ヒトの全身における動的かつ非平衡な水動態のコンピュータシミュレーションモデルを作成し、その定量的かつ統合的理解をめざす。

計画

  • 1年目

    シミュレーションモデルの基本設計およびフレームワークのプログラミング

  • 2年目

    各臓器ユニットのプログラミングと動作確認

  • 3年目

    モデルシステム全体の特性と実験データとの整合性の評価および必要に応じた改良

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Themes 研究テーマ