慶應義塾大医学医学部

サントリーグローバルイノベーションセンター

テーマ2

光を通して水を見る。 アクアフォトミクス

生体内水動態のモニタリングと健康状態の評価

アクアフォトミクスは3つの言葉から造られた用語です。アクアは“水”、フォトは“光”、そして最後のミクスは、”網羅的な解析 (omics) ”を意味しています。すなわち、アクアフォトミクスとは、光を用いた水の網羅的な解析なのです。
アクアフォトミクスで用いる光は、近赤外光です。近赤外光はリモコンなどにも利用されており、紫外線と比べると、生体への影響が少ないと考えられています。近赤外光スペクトルを用いて、溶液中や生体中の水分子(H2O)をスキャンすることで、水分子の情報を得ることが出来ます。アクアフォトミクスでは、この情報を利用して水分子の振る舞いをとらえます。
私たちの研究では、ミネラルウォーターや様々な水溶液、そして尿や皮膚の水分を対象として、水分子の振る舞いの変化と健康との関係性について明らかにしていきます。

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研究概要

水は様々な物質を溶かし込むことができる。アクアフォトミクスは、近赤外光を用いて、水溶液中の水分子のダイナミックな結合の変化をとらえる手法である。

近赤外光は、紫外線や可視光より波長が長く、赤外光や遠赤外光より波長が短い光である(右図)。
近赤外光には、水分子によって吸収される波長領域が複数存在しており、この吸収波長は水分子の水素結合によって影響を受ける。この性質を利用すると、測定対象中の複雑な水分子ネットワークをとらえることができる。

ひとたび物質が水の中に溶け込むと、水分子のネットワークの再構成が起こり、それが近赤外光の吸収波長の変化としてとらえられる。
複数種類の物質が溶け込むと、その水溶液の中の水分子のネットワークはとても複雑になる。しかしながら、そのように複雑な水溶液由来の吸収波長に対しても、それらの物質が水分子に与える効果を総合的に解析することで、水溶液の特徴をとらえることができる。

また、生体内で起こる現象においても、複数の物質が混ざり合い、複雑な相互作用が起きている。我々は、そのような生体内の現象についても、全体的な水分子のネットワークを見ることで、間接的にとらえることができると考えている(water mirror approach)。

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天然に存在する水 ミネラルウォーターの解析

既存の測定装置では検出困難な、さまざまなミネラルウォーターの違いを水分子ネットワークの違いとして検出する。

研究の背景・目的

数多くのミネラルウォーターが市場に出回ることで、我々の飲料水における選択肢は拡大した。しかしながら、我々は自分の身体の状態に適した水がどれなのか分からないまま水を選んでいる。それぞれのミネラルウォーターが我々の身体に及ぼす影響について知り、よりミネラルウォーターを有効に用いるためには、まずそれぞれのミネラルウォーターがもつ特性について理解する必要がある。

計画

  • 1年目

    水分子のネットワークに摂動を与えることで、さまざまなミネラルウォーターの反応性の違いをとらえるアプローチの探索をおこなう

  • 2年目

    複数種類のミネラルウォーターに対して、解析をおこなう

  • 3年目

    得られた知見について再検証をおこない、手法や結果に対する考察を深め、
    確立した手法を最適化する

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ヒトの身体の中の水1 尿の解析

食事量や運動量の違いが尿の近赤外スペクトルに及ぼす影響について解析する。

研究の背景・目的

尿は身体の生理状態に関わる情報を豊富に含んでいる。尿の成分のほとんどは日々摂取する食事と水とに影響され、さらに、個々人の代謝機能の状態が反映される。我々は、尿中の水分子のネットワークを解析することで、身体の代謝機能の状態を明らかにできるのではないかと考えている。

計画

  • 1年目

    タンパク質や水の摂取量の変化によって、尿の近赤外スペクトルに現れる変化を解析する

  • 2年目

    運動量の変化が尿の近赤外スペクトルに影響するかを解析する

  • 3年目

    複数の変動要因による尿の近赤外スペクトルの変動パターンを解析する

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ヒトの身体の中の水2 皮膚の水分量測定

人の皮膚における水分量を定量的に評価する手法を確立する。

研究の背景・目的

皮膚の水分量は、加齢にともなう皮膚のバリア機能や弾力性の減少と関わっている。皮膚の物性を測定する機器や手法はこれまでに多く開発されているが、皮膚の水分量と皮膚の状態の間にある関係性について明確な説明を提供できるものはまだない。近赤外光は皮膚の表皮・真皮まで届き、皮膚で起こる様々なプロセスについての情報を提供すると期待される。特に、近赤外光では水分子の振る舞いを鋭敏にとらえることができるため、皮膚における水の浸透や蒸発などの移動プロセスを正確に評価できる可能性がある。

計画

  • 1年目

    一定の年齢幅の集団内において、
    人為的に皮膚の水分量を変化させた場合に観察されるスペクトルを解析する

  • 2年目

    さらに解析する年齢層を広げ、加齢による皮膚の水代謝の変化について解析する

  • 3年目

    多変量解析を用いて、皮脂量や弾力性などの情報についても
    スペクトルから抽出できるかを試みる

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