ドライシンドロームや肥満の予防と治療、再生医療への応用

ヒトの身体の約70%は水です。体内の水は細胞内に存在する細胞内液と、血液やリンパ液などの細胞外液に分かれます。これらの水は、同じところにとどまらず、たえず細胞の内や外を行き来して、身体のすみずみまで行きわたるよう動いています。では、体内の水はどのように行き来しているのでしょうか?その鍵となるのが「アクアポリン※」と呼ばれる水を選択的に通すタンパク質です。ヒトの身体の各細胞表面にアクアポリンが存在し、水の通り道となって身体のすみずみまで水が行きわたるのを手助けしています。
ヒトのアクアポリンはこれまでに13種類が発見されており、身体の部位によって存在するアクアポリンの種類が異なること、またそれぞれのアクアポリンが異なる機能を担っていることもわかってきました。私たちは特にアクアポリン3とアクアポリン7に注目しています。それらアクアポリンの機能を解析することにより身体の水をコントロールする方法を見出し、健康増進に結びつけるべく研究を進めていきます。
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アクアポリンは、米国のPeter Agre博士(2003年ノーベル化学賞受賞)により1992年に発見されました。
アクアポリンは、水の通り道として細胞膜上に存在する蛋白質である。ヒトは 13 種のアクアポリンを有し、そのなかのアクアポリン 3、7、9、10 (加えて異論もあるが 6 )は、水のみならずグリセロールを透過させる「アクアグリセロポリン」と呼ばれる。我々は、アクアグリセロポリンを「生命をめぐる水と脂質のレギュレーター」と位置づけ、その機能解析を通して、健康長寿をもたらし得る水および脂質のコントロール方法を探索する。主たる研究課題に以下 A と B を設定した。
AQP7 が脂肪の分解と蓄積とを橋渡しする可能性に注目し、分子メカニズム(上流下流のシグナル伝達機構)の同定を進める。また、脂肪組織血管に発現している AQP7 が代謝にどう役立っているのかを明らかにする。
白色脂肪組織の脂肪細胞は、脂肪の合成蓄積と分解放出により全身のエネルギー代謝の恒常性を担保している。さらに、多様な生理活性因子アディポサイトカイン(レプチン、アディポネクチンなどいわゆる善玉ホルモンや、TNFα 、PAI-1 など悪玉ホルモンを含む)を血中に送り出す。ゆえに脂肪の適切なコントロールの効果は全身に及ぶ。脂肪コントロールには合成蓄積と分解放出のバランス調整が重要で、(たとえるなら自動車のアクセル/ブレーキの)連携の乱れは代謝異常疾患(2型糖尿病等)に直結する。ところが、バランス調整の仕組みは謎が多い。
AQP7 はノックアウトマウスが糖尿病病態と白色脂肪組織脂肪細胞の肥大を呈することから、インスリン抵抗性や体脂肪の過剰蓄積を抑制する機能を持つことが示唆されており、どのように抑制するかというメカニズムの解明が待たれている膜蛋白質である。本課題において我々は、AQP7 の脂肪細胞内での機能、AQP7 依存的な脂肪代謝制御メカニズムの解明、そこで働く分子の制御手段を探索することにより、白色脂肪組織による全身性の代謝コントロールの仕組みを明らかにし、脂肪代謝のバランスをポジティブに変調することを可能にしてヒトの健康増進へと繋げていく。


本研究では coherent anti-Stokes Raman scattering (CARS) 顕微鏡でのイメージングや生化学実験により、以下のステップを踏んで、白色脂肪細胞におけるAQP7の機能を明らかにする。
- 1年目
脂肪細胞 AQP7 の細胞内局在を制御するメカニズムの解明
- 2年目
細胞内の AQP7 が、シグナル伝達機構をどのように変化させるかの解明
- 3年目
脂肪細胞の外側、白色脂肪組織血管に発現している AQP7 の機能解析
薬や食品など外部からの働きかけによって AQP3 をコントロールし、皮膚の状態変化をもたらす手段を探索する。そして、AQP3 がなぜ皮膚のバリア機能を変化させるのかを明らかにする。AQP3 の発現量制御と機能解析によって、皮膚上皮の機能や質感の向上、皮膚の健康増進をめざす。
AQP3 は、腎集合管細胞(血管側膜)や赤血球のほか、小腸大腸上皮、気管支、そして皮膚などの、動物個体と外界との接触面に幅広く発現している。ノックアウトマウス表現型から AQP3 は尿濃縮に重要であること、グリセロール依存的な皮膚の保湿、腸においてグリセロール取り込みの機能を有することが示されている。またノックアウトマウスは、皮膚水分量が減少し、創傷治癒遅延(皮膚構造が損傷した後に再構築されるまでの時間がかかる)が報告され、細胞生物学的解析から細胞骨格再編成への関与が見出されている。
我々は、特に皮膚における AQP3 に注目し、皮膚炎や加齢による皮膚構造維持能力の低下への対抗策として、AQP3 の発現を調整する物質が有用であろうと考えた。皮膚構造の保持、上皮疾患改善への効果が見込まれる。加齢に伴い発現量が減少していく AQP3 を取り戻すことにより、皮膚質感の若返りという美容面への応用も期待できる。並行して、AQP3 の関与する細胞内シグナリングの詳細を明らかにしていく。


- 1年目
AQP3 の発現制御を介して、皮膚や腸の健康に貢献する薬や食品成分の探索
- 2年目
AQP3 が細胞骨格を制御するメカニズムの解明
- 3年目
AQP3 経路の細胞運動、細胞骨格、細胞増殖への影響、
および AQP3 発現と肌の潤いとの関係の解明、その制御